金融戦争、第6番目の戦場と超高速アルゴリズムのジャングル化


Algorithm_Trading

今日の[p2p type=”post_tag” value=”war”]戦場[/p2p]は、前世紀からの「陸」「海」「空」「宇宙」に続き、2007年にエストニアが受けた大規模攻撃に代表される「サイバー空間」、そして、2014年の米国政府による対ロシア経済制裁に幕を切られた「金融」にまで拡がっています。エストニアのネットインフラが一時的に麻痺に陥り遮断を強いられたように、21世紀に新しく編みだされた仮想的な軍事行動はきわめて迅速で有効な攻撃手段なのです。

また、ウォール街の全取引の約7割を占めるとされる超高速取引のアルゴリズムはたんに人間の認知可能な速度や量を超えているだけでなく、その複雑で膨大な相互作用によりわたしたちのコントロールが及ばないカオスを創出し、新たな「自然」として強大なちからを持ちはじめています。情報科学、情報技術のきらびやかさとは対照的な金融の世界ですが、眼を背けているうちに未来社会のありようをあらわしはじめています。

アルゴリズム取引が産業界を席巻したのは10年以上前のこと。いまや新進ヘッジファンドの1台だけの机からゴールドマン・サックスの金ピカのホールまで、ウォール街で行われる取引のほとんどをコンピューターコードが行っている(コンピューターを使った超高速取引は全取引の約7割に上ると推定されている)。市場の浮き沈みを決めるのは、最良の情報を、あるいは抜け目のないビジネスマインドを競い合うトレーダーたちではなく、潜在的な利益の微かなシグナルを感知するために延々とデータを読み込み続けるアルゴリズムになりつつある。

最も基本的なレヴェルでいえば、コンピューターはわめき声を上げる仲買人や手数料といった面倒を省いてくれるので、今後の買い手や売り手の助けとなる。超高速取引のトレーダー、別名フラッシュトレーダーは、毎秒何千もの売買を行う。極めて迅速な取引を巨大な規模で行うため、株価のほんの数セントの変動で一財産が動く。それよりもスピードは劣るがより洗練されたアルゴリズムもある。損益計算書や株価実績やニュースフィードを分析して、ほかの投資家が見過ごしたおいしい投資対象を見つけるのだ。こうして、人間より効率的で、速く、抜け目のないシステムが出来上がった。

それを理解し、予測し、管理するのはことさら難しい。ほとんどの生身のトレーダー同様、アルゴリズムもかなり単純な一定のルールに従う傾向がある。その一方で、毎秒何千、いや何百万ものデータ点を視野に入れ、絶え間なく変わる市況に瞬時に対応している。そしてまた取引のひとつひとつに、無数のコンピューターが瞬時に応答し合って対話を行い、そこからさらに新しいデータ点が作られる。このシステムは、最良の状態であれば、効率よく賢明な資本配分の仕組みを、予測に制御された市場を、感情やあやふやな判断に対する数学の優位を体現する。

だが最悪の場合、それは不可解でコントロール不能のフィードバックのループとなる。これらのアルゴリズムは、ひとつひとつは容易にコントロールできるものなのだが、ひとたび互いに作用し合うようになると、予測不能な振る舞いを─売買を誘導するためのシステムを破壊しかねないようなコンピューターの対話を引き起こしかねないのだ。2010年5月6日、ダウ・ジョーンズ工業株平均はのちに「フラッシュクラッシュ(瞬間暴落)」と呼ばれるようになる説明のつかない一連の下落を見た。一時は5分間で573ポイントも下げたのだ。ノースカロライナ州の公益事業体であるプログレス・エナジー社は、自社の株価が5カ月足らずで90%も下がるのをなすすべもなく見守るよりほかなかった。

今日ではこれらの唐突な下落は日常茶飯事であり、その原因を特定することはしばしば不可能だ。だが多くの観測筋は、責めを負うべきは強力で超高速のトレーディングアルゴリズムだと考えている。単純なプログラムが相互に作用し合い、人間の頭脳では理解できず予測不能な市場を作り上げてしまう、と。

2010年9月下旬、米国商品先物取引委員会(CFTC)と米国証券取引委員会(SEC)は、5月6日に起きた「フラッシュクラッシュ」についての104ページにわたる報告書を提出した。報告書によれば、その原因は、ある「ファンダメンタルトレーダー」がアルゴリズムを用いて"ヘッジ売り"をしたことだった。取引はわずか20分という短時間で強引に決済され、ほかの無数のアルゴリズムが即座にその売りに反応し、さらに互いにその挙動に反応し合って株価の大暴落を引き起こした。大混乱のなかでどう見ても意味をなさない取引が繰り返された。アクセンチュアの株は二束三文で売りに出され、アップルは1株10万ドルをつけた(その後どちらの取引も無効になった)。これらの動きによって金融システム全体があっけなく麻痺してしまったのだ。

みな、アルゴリズム取引のシステムがそれを創り出した人間よりも大きくなってしまったことを暗黙のうちに認めている。いまや、ひとつの株が1秒間に1万件の入札を受けることもあるのだ。シンプルな因果関係の説明の試みを、このデータの氾濫がすべて覆してしまう。「金融市場はフィードバックによって高度に自動化された適応的力学システムになってしまった」と言うのは、ウォール街のさまざまな会社のためにアルゴリズムを作成したペンシルベニア大学コンピューターサイエンス学科教授のマイケル・カーンズだ。「私の知る限り、その潜在的な関係性を理解できるような科学は存在しない」。

via ウォール・ストリート、暴走するアルゴリズム(1/5) « WIRED.jp.

1980年代末以降の[p2p type=”post_tag” value=”america”]アメリカ[/p2p]政府の金融規制緩和にともなう[p2p type=”post_tag” value=”derivative-transaction”]デリバティブ取引[/p2p]の隆盛は、以前書いたように(「環境順応型知性、周囲からの「期待」に圧し潰れる韓国の自殺者たち」)、仮想化社会、普通に云えば情報化社会の問題として見落とすことのできない大きな変化です。実際、冒頭にあげたケヴィン・スラヴィンがTED講演で語っているとおり、後にクオンツと呼ばれる理数系科学者のウォール街への参入が現代の金融工学の急速な発展には欠かせませんでした。ちなみに今のかれらの仕事は主に、デリバティブの商品設計や価格決定をおこなうアイボリー・タワーと、実際の市場からさまざまなシグナルを読みとり儲けの機会を生みだすクリスタル・ボールのふたつにわかれるようです。(参考:

そして、 1886年にすでに自社独自のアルゴリズムを開発していたモルガン・スタンレーに雇われるかたちでウォール街に参入し、1988年に自身の名前を冠したヘッジファンドを設立、そして、1996年には高速量的トレーディングを開拓した功績でFortune誌から「クオンツの王様」と呼ばれたのが、超並列非ノイマン型コンピューターを研究していた計算機科学者の[p2p type=”post_tag” value=”david-e-shaw”]デビッド・ショー[/p2p]です。おもしろいのは、彼がPh.Dを取得したのはスタンフォード大学の人工知能研究所で、IT企業の巨人[p2p type=”post_tag” value=”google”]Google[/p2p]を創業した[p2p type=”post_tag” value=”larry-page”]ラリー・ペイジ[/p2p]とおなじ計算機科学者の[p2p type=”post_tag” value=”terry-winograd”]テリー・ウィノグラード[/p2p]の指導を受けたこと、そして、もうひとりの巨人[p2p type=”post_tag” value=”amazon”]Amazon[/p2p]の創業者[p2p type=”post_tag” value=”jeff-bezos”]ジェフ・ベゾス[/p2p]の賞賛する元上司であったことです。

奇妙なまでに、何らかの思想的意義から金融の世界にふれるひとはほとんどいません。しかし、情報理論の創始者[p2p type=”post_tag” value=”claude-shannon”]クロード・シャノン[/p2p]が独自の投資理論を作っていたことにはじまり、ヘッジファンドで財を成したショーが癌などの新薬設計のためにタンパク質の分子動力学的シミュレーション専用の超多並列計算機アントンを開発したことを考えても(参考:)、仮想化時代の工学的起源と未来を仲立ちしているのはこの分野にほかなりません。勿論、アルゴリズムについてこれまで書いてきた視点とは異なり(「アルゴリズムの表情認識はヒトの共感的知性の代替物になりうるのか?」)、単体のアルゴリズムが未来の人間や社会を規制することではなく、複数のアルゴリズムが入り組みあって繁茂し、人間の手をはるかに超えた速度と量と複雑さで自律的に安定と不安定を繰り返す方が問題としては深刻でかつ避られないものでしょう。

6月10日発行の日本版ニューズウィーク誌に、今度のロシアに対する米国の経済制裁はたんなる象徴的なふるまいではなく、適切な有効性をねらった21世紀型の軍事行動であると指摘する記事が掲載されています。デジタル革命でラジカルに結びついた現代の金融業界は文字どおりの意味で第6番目の戦場に変わったのです。ひょっとすると、アメリカの海外での情報監視体制や中国のサイバー空間での産業スパイも含め、大国間でいまだおこなわれていない現代戦はこうした仮想化領域で瞬時にあるいは恒常的にすでに繰り広げられているのではないでしょうか?

Occupy_Wall_Street

追加制裁の話は「ツイッターで知った」と、ロシアのエネルギー取引大手で石油取引世界第4位のガンバー・グループのある重役は本誌に語った。

ウクライナ南部クリミアでのロシアの強硬姿勢をめぐって緊張が高まるなかで彼らが保有株を売買したのは「嫌な予感がしたから」で「わが社の誰もブラックリストの話は知らなかった」と、その重役は語った。

ガンバーは間一髪で難を逃れたが、世界は明確なメッセージを受け取った——現代の戦争ではまず金融が攻撃対象になり、その効果は拡大しそうだ、と。

「財務省が安全保障の中心的役割を担うとは、15年前なら考えられなかっただろう」と、米財務省のダニエル・グレーザー次官補(テロ資金問題担当)は言う。「しかし今では大統領が使える新たなツールがある」

この新たな司令室は、730人のスタッフを有する財務省テロリズム・金融情報局(TFI)だ。9.11同時多発テロを受けて創設されたが、今やその任務はテロリストやマネーロンダリング(資金洗浄)の追跡にとどまらない。敵対する政府とつながりのある標的を慎重に選び、最先端のノウハウを使って攻撃している。

「これは21世紀版の戦争だ」と、法律事務所ギブソン・ダン・アンド・クラッチャーの弁護士で制裁に詳しいジュディス・リーは言う。

ロシア軍のクリミア侵攻を受けて、TFIはプーチン派の金融取引を麻痺させるべく制裁リストを作成、制裁対象の資金繰りに打撃を与えた。サンクトペテルブルグの中規模銀行(資産規模約100億ドル)でロシア政府要人を顧客に持つバンク・ロシアでもビザとマスターカードのクレジット決済が突然停止、スタンダード&プアーズが信用格付けを引き下げた。

財務省のブラックリストに載れば米ドル決済(国際決済銀行によれば世界の外国為替取引の87%を占める)ができなくなる。外国の金融機関は通常、米金融機関で取引を行うことで決済を「ドル化」するが、米金融機関は制裁対象者の利害に関わる決済を凍結することが義務付けられているからだ。

TFIの弁護士や金融アナリストは、中南米の麻薬王に加えて北朝鮮やイランといった「ならず者国家」やアルカイダのようなテロ組織を相手にスキルを磨いた。とはいえ、G8のメンバーで欧米やアジアと通商関係のある国を攻撃対象にするのはロシアが初めてだ。ロシアは多くの点で試金石をなる。

中心的役割を担うのはTFIの下部組織である外国資産管理局(OFAC)。大統領令に基づき制裁対象者のリストを作成し、アメリカの法域内にある制裁対象者の資産を凍結する。リストで指定された制裁対象者との取引が判明すれば厳しい罰金を科す。制裁対象者が50%以上出資する法人に付いても同様だ。

財務省のブラックリストの情報は、インターネットを介して各金融機関に送られる。「財務省には(更新情報を発信するための仕組みである)RSSフィードがあり、アメリカの全金融機関が登録している」と、OFACのアダム・ズービン局長は言う。「アメリカに限らず世界中の数百の金融機関もこのリストも閲覧している。発信すれば即時に効力を持つ」

ズービンによれば、外国の金融機関もこのブラックリストに強い関心を寄せているという。理由は、制裁対象者となった個人や企業と取引するリスクを冒したくないからだ。「最先端のコンピューターシステムを備えた最大手の金融機関なら、ブラックリストを行内のチェックリストに組み込んで、リスクのある取引の洗い出しをものの数分いないで始める」とズービンは言う。

3月21日、両社(ビザとマスターカード)はバンク・ロシアとSMP銀行(モスクワ)との決済を停止。銀行側からは不法行為だとの批判の声が上がった。マスターカードによれば、SMP銀行との決済は財務省からの許可が出たため23日から再開されたが、バンク・ロシアは「特別指定」されているため、現在も決済はできないままだ。

「OFACのリストに載ったら、世界中のどの銀行も相手をしてくれなくなる」と弁護士のリーは言う。「世界の決済システムはつながり合っており、もはや逃げる先はない」

「わが社のクライアントの中には、死後8ヵ月もたつのにリストに載ったままというケースもあった」と語るのは、制裁対象者に法的なアドバイスをしているワシントンの法律事務所フェラーリ&アソシエイツのサム・カトラーだ。「死んでから何年も経つのに、ウサマ・ビンラディンの名前もまだ残っている。法的な見地から言えば、財務省のブラックリストに載るくらいなら『外国テロ組織』 に指定されるほうがまだましだ」

「明確な制裁レベルをはっきりと示したのは初めてのことだ」と、コンサルティング会社ユーラシア・グループのムジバダ・ラーマンは言う。「制裁には3つのレベルがあり、レベルが上がるにつれ誘因と結果の重大性が段階的に大きくなる。第1レベルは象徴的なもので、第2レベルは個人を標的にする。そして第3レベルでは、ロシア経済のあらゆる分野に制裁を加えることを警告する」

ロシアへの制裁は現在、第2レベルにある。「威嚇射撃を行って、騒ぎが収まるのを待っている状態だ。だがプーチンがこれ以上やり過ぎたら、後戻りできなくなる」と、元財務省幹部は本誌に語った。

アメリカは最近まで、爆弾や地上軍投入、禁輸措置といった一般的な政治手法を使うことで敵を潰してきた。ただしこのやり方は、近隣諸国やその経済を麻痺させるという好ましくない2次被害を引き起こすことが多かった。一方、新しい世界秩序の下では、正確に的を絞った金融制裁が行われるようになった。米財務省がグローバリゼーションと金融による世界支配をうまく利用した結果だといえる。

「簡単なことではなかった」と、この新秩序の立案者であるフアン・ザラテは振り返る。彼はハーバ—ド大学出身の法律家で、現在は戦略国際問題研究所の上級顧問を務めている。

03年春のある夜、当時は下級財務官僚だったフレーザーとオフィスで話をしていたザラテは思い付いた。「われわれの金融の力はとても遠く、深いところまで及ぶ上、われわれはそのシステムを支配している。貿易や外交を標的にした金融制裁ではなく、行動を標的にした金融制裁としてこのシステムを使うことができる」

精密に仕組まれた金融戦争に、プーチンはどんな反応を示すだろうか。ホワイトハウスはプーチンを相手にすることは「やめた」と、政権の関係者は言う。「プーチンを直接、説得しても何の意味もないと考えている」

via 金融のプロが仕切る対プーチン制裁(リア・マグラス・グッドマン、リンリー・ブラウニング)

Buy good books
And support me, please.
[amazonjs asin=”4152093978″ locale=”JP” title=”ウォール街の物理学者”]

Chika Hitujiya

I'm Futurist, producing "Whole Earth Museum" and co-producing art project Run! Miumushi-Kun & Garapadish. This common purpose is really simple. Making you enjoy and preserving the enough requisite knowledge & things for human to survive the crisis of period.

Leave a Reply

Your email address will not be published.