ノアの洪水伝説、アメリカ大手企業はなぜ米軍特殊部隊に学ぼうとしているのか?


BlackSeaDeluge2

まずはバービーをやるぞ!

いてつく真冬の朝6時。米首都ワシントン近郊のバージニア州アレクサンドリアに集まったエンジニアやコンピューター科学者たちは途方にくれて目を見合わせた。バービーって、何?

彼らはハードディスク(HD)製造大手シ—ゲイト・テクノロジー社の幹部社員。頭は切れるが体は切れない。小さなパソコンの記憶容量を拡大するプロであり、HDの設計を考えるのは得意だが、バービーはお手上げ。そもそもバービーの何たるかも知らない。

講師役のマイク・フーバーは苦笑して、自ら手本を見せる。直立姿勢からしゃがみ、手を突いて後ろに足を伸ばし、腕立て伏せを1回やり、しゃがんだ姿勢に戻ったら、今度はジャンプして直立姿勢に戻る。

フーバーは2年前まで、米軍の特殊部隊にいた。アルカイダやタリバンのような敵を、アフガニスタンやイラク、あるいはボスニアなどで追い回してきた。私たちがニュースや映画でしか知らないダークでダーティーな戦いを、見事に生き抜いてきた男だ。

彼は矢継ぎ早に指示を出し、シーゲイトの面々にさまざまな肉体的・精神的チャレンジを与える。肉体的には見劣りするけれど、企業戦士も不屈の精神で課題に取り組む。

フーバーはSEALs(海軍特殊部隊)や秘密作戦部隊、スパイなど、ダークな戦いのベテランを血腫したマクリスタル・グループ社の一員だ。社名から分かるとおり、同社の共同創設者はかつてアフガニスタン駐留米軍の指揮を執ったスタンリー・マクリスタルだ。

via 企業戦士よ、SEALsに学べ(カトリーナ・ブルッカー)|日本版ニューズウィーク

前回(「情報化時代の4つの負の自画像、日本のひきこもり問題と韓国の醜悪なマスメディア」)、前々回(「社会的知性の繊弱化、過激な新世代ネオナチの台頭に盛りあがる極右スウェーデン人党」)と、今日の情報化時代における人間学的な負の面について書きましたが、それは、チャールズ・マレーの指摘する「新上流」と「新下流」の社会的経済的分断とはかならずしも一致せず、 構造的には霊長類学者の[p2p type=”post_tag” value=”frans-de-waal”]フランス・ドゥ・ヴァール[/p2p]の指摘する共感の問題に、すなわち、[p2p type=”post_tag” value=”mammals”]哺乳類[/p2p]、[p2p type=”post_tag” value=”primates”]霊長類[/p2p]、[p2p type=”post_tag” value=”anthropoid”]類人猿[/p2p]としてのヒトが1億数千年間も発達させてきた[p2p type=”post_tag” value=”socialized-mind”]社会的知性[/p2p]の根幹がこの1、2世紀で崩れてきていると云う問題にあたります。具体的にいえば、身体的共感はあらゆる意味での学習能力と社会的関係の基礎にありますから、今日の個の問題は知的怠惰とコミュニケーション不全にわかりやすくあらわれています。

難しいのは、今日の多くのひとがある意味でヒトや類人猿の本来有していたはずの知性を繊弱化させているいっぽうで、以前書いたように(「サイバー非社交性、情報技術が人間にもたらす3つの問題」)、世界全体の動きとしてはより一層の学習と知識修得を要するようになっていることです。すなわち、知的怠惰の安寧に堕ちていく極と知的克服の苦を選んでいく極とのあいだに今日の膨大な人間の多様性があり、同時に、米国のエンロン事件や[p2p type=”post_tag” value=”subprime-lending”]サブプライムローン[/p2p]問題であかるみになったような情報化時代の危険分子を生みだしている構図があるのですが、根本的にはこうした個の知性の引き裂かれの背景には、近代社会、現代社会の急激な高度化、高速化、複雑化の問題があります。

以前何度かふれたとおり(「環境順応型知性、周囲からの「期待」に圧し潰れる韓国の自殺者たち」)、発達心理学者の[p2p type=”post_tag” value=”robert-kegan”]ロバート・キーガン[/p2p]は情報化社会のさまざまな技術革新により今日ではほとんどの労働者に最高経営者並みの知性が要求されるようになってきていることを示しておりまた、日本でもファーストリテイリング社の[p2p type=”post_tag” value=”tadashi-yanai”]柳井正[/p2p]が実際にそういう方向へ方針転換することを先日発表しました。(「UNIQLOの大転換と日本の有名大卒マイルドヤンキー群」) もちろん、人間の個だけでなく、組織としての企業もまた、今日のほとんど野生化したといって良いグローバル社会全体の過酷な現実を戦い抜くべく現代的なモデルチェンジを強いられるようになってきているのが現状でしょう。

StanleyMcCrystal

マクリスタル社の業務は、アメリカの企業を訓練すること。自分たちがアルカイダと戦ったように、彼らがビジネス界で戦っていくための訓練だ。課題を終えたシーゲイトのある幹部は「役に立つと思う」と感想を述べた。「彼らがアフガニスタンで経験したことは、われわれがいま経験したこととよく似ている」

「退役した翌朝、友人たちが訪ねてきた」とマクリスタルは言う。現役時代の仲間の1人である元SEALsのデーヴィッド・シルバーマンには、あるアイデアがあった。彼は自分たちがイラクとアフガニスタンでの戦闘で学んだすべてを、実業界に生かしたいと考えていたのだ。

アルカイダやタリバンとの戦いが、いかに自分たちの考えかたを根本的に変えたかを、彼らは熱く語り合った。「アルカイダはまったく異質だった。彼らの組織には中心というものがなく、絶えず変化を続けていて、その動きを予想するのは本当に難しかった」と言うのは、共同創設者でCEOのシルバーマンだ。

そして米軍にとってのアルカイダは、旧来の産業界にとってのインターネットやモバイル技術、クラウド・コンピューティングに似ている。どちらも動きが早くテクノロジーを駆使しており、予想がつかず、想像を越えた破壊力を秘めている。

11年の創業以来、マクリスタル社にはウォール街やシリコンバレーの企業幹部たちから社員訓練の依頼が殺到している。シーゲイトはこれまでに幹部500人に訓練を受けさせ、さらに現場のマネージャー1500人にも訓練を受けさせる予定だ。

端的に言えばマクリスタル社は、自分たちがアルカイダ追跡に使った戦略の青写真を、アメリカ企業が導入できる形に変えて商品にしている。戦術的な研修や作戦司令室でのアクション・プラン、1対1のコーチングを使って、自分たちがやってきた「デジタル時代の戦争」の戦い方を、段階的に指導する方法を考案したわけだ。

「彼が軍の構造改革のために行ったことは、本質的に私たちが必要としていることと同じだ」と言うのは、スコッツ・ミラクルグロー社のバリー・サンダースCOOだ。園芸用品などを販売する同社は、マクリスタルの会社に従業員1000人の訓練を依頼した。

マクリスタルが軍という巨大組織で秘密作戦のあり方を全面的に変えさせたことは、今や伝説をなっている。彼がいかにして米軍の統合特殊作戦部隊(JSOC)を「産業時代の官僚組織」から「現代風でデジタル技術に長けたアルカイダ追跡マシン」へと変えたかについては、多くの本や記事が書かれ、ケーススタディが作成された。

「マクリスタルの下、JSOCは順応性のある革新的な対テロ戦舞台という理想を実現した」と、ワシントン・ポスト紙の記者デイナ・プリーストとウィリアム・アーキンは著書『トップシークレット・アメリカ:最高機密に覆われる国家』で指摘する「マクリスタルはトップシークレット・アメリカを決定づける特徴のうち少なくとも4つ——巨大な規模、非生産的な重複、内部の秘密主義、旧態依然とした階級構造——を全否定することで改革を達成した。

via 企業戦士よ、SEALsに学べ(カトリーナ・ブルッカー)|日本版ニューズウィーク

興味深いことに、情報化社会の具体的な成立には人類の知能を増幅させるための道具とその必要性の認識が必要だったのですが(「軍事用ロボットは戦争の何を変え、次世代ハイテク兵器は何を変えうるか?」)、マネジメントの概念を確立し、近代社会特有の工場生産体制を結果的に完成させた発明家の[p2p type=”post_tag” value=”frederick-taylor”]フレデリック・テイラー[/p2p]もまた、「今日以上に、大会社の社長から家庭のお手伝いに至るまで、より一層優れた、より一層能力のある人間が求められた時代はこれまでなかった」という透徹した認識を、1911年刊行の『科学的管理法の諸原理』の序文ではっきりと示しています。

もっとも、テイラーの発想と方法には近現代を分かつ重要な違いがあるにはあります。しかし、以前書いたように(「創造性の秘密、スーパーミラーニューロンと急激な気候変動)、テイラーの生きた時代は数世紀にわたり気候の寒く不安定だった小氷期のおわりに位置し、文明史上、気候環境のランダムネスに直面することが比較的少なかった穏やかな時期のはじまりでした。それは、テイラーが当時の大統領ルーズベルトの演説をひきながら、資源としての自然環境と労働者の非能率的な浪費について書いていることからもみてとれるのですが、人為的要因を越える[p2p type=”post_tag” value=”climate-change”]気候変動[/p2p]が問題になりはじめた近年まではこの時代の延長にあったともいえるのです。

つまり、近代科学と技術が融合することで可能となった第2次経済革命後の近代国家とグローバル社会は、19世紀前半以降の気候の安定化に実のところは支えられていました。もちろん、わたしたちの生活が情報化、ポスト情報化とどんどん高度化していったところで外部環境としての経済、政治、自然の不安定さはなくならないのですが、今日の現代人のむずかしさはこれらの伝統的なランダムネスが相対的にみえづらくなっているところにあります。つまり、人間が自身の起源をあらゆる段階で失いつつあるのがいまなのです。

BlackSeeDeluge

「われわれは負けそうだった」と、エール大学で自らの戦闘経験を講じているマクリスタルは言う。「認めたくはなかったが、現実に負けつつあった」

「あるタリバンのリーダーを追尾していたときのことだ。こちらの動きを読まれているはずはないのに、いつも先を越されて逃げられていた」。かつてアフガニスタンやイラクでマクリスタルの下で作戦を展開した元SEALs隊員で、今はマクリスタル社の事業開発担当取締役を務めるクリス・ファッセルは回想する。

「そうして2日もたってから、やっと失敗に気付く。後になって検討してみると、こっちは正しい情報を持っていた。だが、すぐ連携し合う体制ができていないせいで、敵の次なる動きに追い付けないでいた」

マクリスタルはそんな状況を変えようとした。彼の指揮の下で、それまで疑心暗鬼で軽蔑し合っていた各機関が協力し始めた。以前だったら、あり得ないことだ。例えば、競争相手だったSEALsと陸軍の特殊部隊デルタフォースが合同作戦を展開するようになった。

マクリスタルはCIAとNSAの情報システムを他の組織にも開示させ、部下の情報将校の1人をCIAとの連携に専念させた。またJSOCのシステムの帯域幅容量を100倍にするなど、コミュニケーション・システムを徹底的に強化した。

世界中で活動しているすべての機関の工作員がテレビ会議で連絡し合えるようにもした。カブールにいても、マニラやジブチにいてもだ。ワシントンの情報分析員は、現地で作戦を実行する特殊工作員の様子をリアルタイムで見ることもできる。もちろん、敵から没収した携帯電話の情報も即座に分析できる。

結果は目覚ましいものだった。数日かかった作戦が数時間しかかからなくなった。マクリスタルによると、例えばイラクで1ヵ月当たりに実行した作戦の数は、04年には20件未満だったが、06年には300件近くまで増加したという。

「大学を出たばかりで、HDの時代を終わらせる新しいテクノロジーを思い付くような若い諸君のことは、アルカイダのようなものと思えばいいんだ」と、シルバーマンは続ける。

この場の雰囲気は普通の管理職研修とはまるで違う。誰もがシルバーマンの話に引き込まれている。互いに目を合わせ、うなずき合う人たちもいる。後になって1人がこう言った。「(改革前の米軍の組織が)規則に縛られて機能しなくなっていたところは、うちの会社にそっくりだと思ったね」

この戦いの最前線に立つ幹部たちは研修の効果を実感している。この世界に入って以来、最も効果的な体験だった」と、投資家向け広報担当副社長のケイト・スコルニックは言う。彼女は同僚たちの行動にも変化を感じてきているという。

マクリスタルたちも、利益を上げるためにはマッキンゼーやベイン・アンド・カンパニーのようなコンサルティング業界の大手企業と戦って仕事を勝ち取らなければならない。これらの企業はタリバンと違うが、獰猛に縄張りを守ろとするところはそっくりだ。

将軍マクリスタルは感慨深げに言う。「ビジネスは、まさに戦争そのものだ」

via 企業戦士よ、SEALsに学べ(カトリーナ・ブルッカー)|日本版ニューズウィーク

今日の地質学では、紀元前5000年紀の半ばほどで地中海側から黒海に急激な海水の大量流入のあったことがあきらかになっています。それがどの程度であったのかはいまも議論が続いているようですが、1996年にこの説を最初に発表した地質学者のウォルター・ピットマンとウィリアム・ライアンによれば、「ナイアガラの滝の200倍の水量」で「時速50マイルを上回る速度で海峡を突破」し、数ヶ月のあいだ「黒海の水位を毎日6インチ上げ」続けたそうです。さらにふたりは、洪水前の黒海沿岸には農耕を発達させたひとびとが数多く住みついており、大洪水にともない手許のわずかな種や道具をたずさえて周辺地域に散り散りに逃げていったというたいへん魅力的な仮説までも主張しています。

勿論、ノアの箱船をはじめとする各地の洪水伝説は彼らがじぶんたちの身に起こったことを神話的に語り継いだものであり、未だに由来の不明な世界最古の文明人[p2p type=”post_tag” value=”sumeru”]シュメールの民[/p2p]とはまさしく黒海沿岸の彼らだったのです。僕自身は、ピットマンとライアンの文体の高さからこの説を信頼します。なによりも、各地の洪水伝説の元型とされるシュメールのそれは、[p2p type=”post_tag” value=”epic-of-gilgamesh”]ギルガメッシュ叙事詩[/p2p]の最終部で大洪水を生き延びたウトナピシュティムのくちから語られるのですが、まさしくこれが、ギルガメッシュが自身の努力の根本的な不毛さを知り、永遠不変の命を断念し、現実的にできる最善のことをウルクの王としておこなうようになるきっかけとなったものなのです。ここに、世界最古の文明人が語り継いできた不変なる夢の断念と建設の意欲、そして、艱難辛苦の経験の厚みを僕はみいだします。

Buy good books
And support me, please.
[amazonjs asin=”4087733939″ locale=”JP” title=”ノアの洪水”]

Chika Hitujiya

I'm Futurist, producing "Whole Earth Museum" and co-producing art project Run! Miumushi-Kun & Garapadish. This common purpose is really simple. Making you enjoy and preserving the enough requisite knowledge & things for human to survive the crisis of period.

Leave a Reply

Your email address will not be published.