創造性の秘密、スーパーミラーニューロンと急激な気候変動


GhostInTheShell

私たち人間は、欲望を瓶に詰めて観察する。政治に対する分析力を磨き、ほぼすべての選挙を正確に予測できるようになった。平均的な17歳のアメリカ人が受けてきた教育を、標準テストの点数という血の通わない数字に圧縮する。大学は創造性を教えようとし、企業は創造性を所有しようとして、アップルは「創造力のためのアプリ」を開発しているが、創造性は知識という名の網をすり抜ける。

独創的な作品や「アハ!」な製品、新鮮な洞察力が、正確な計算とたぐいまれな生産能力の組み合わせから生まれることはめったにない。乱雑さと魔法が、セレンディピティと常識外れが、必要なのだ。創造性は、ふとした合間に生まれる。

データ分析の専門家ネイト・シルバーは、データ主導の政治予測ブログ「ファイブ・サーティ・ナイト」を再開し、保守派の論客たちを批判した。たとえば、レーガン政権でスピーチライターを務めたペギー・ヌーナンは、2012年の米大統領選の序盤に、国民は「忙しすぎて新聞のデータを見ないから」共和党候補のミット・ロムニーの勝利をもたらす波に気がつかないだろう、と言ってのけた。彼女の予測がはずれたことは言うまでもない。「これからは、より数字オタクなニュースを求めよう」と、シルバーは宣言している。

ただし、シルバーも認めるように、数字が情報時代のすべてではない。

データ・ジャーナリズムが、デジタル時代に生き残ろうともがいている知的職業から、当てずっぽう的な推測を一掃したことは確かだ。投票日前日には、専門家の直感を聞くより、あらゆる科学的な調査を総合的に見るほうがはるかに役に立つだろう。

アマゾンではデータ分析が王様だ。空想にふける時間や失敗する余裕を認めることは、創造性には欠かせないが、コストがかかる。データ主導の企業が最初に手放すものだ。

混乱の意義を認めないところに、創造性は生まれない。

via アマゾン型の分析から、創造性は生まれない | The New York Times | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト.

以前、創造性の極端な高さや深みをもつひとの脳画像が、物事に集中しているときでさえ、大量の情報をノイズとして排除することができていないと云う点で統合失調症患者の脳画像と共通すると云う記事を書きました(「スティーブ・ジョブズと創造性の狂気説」)。その後、統合失調症を疑似体験したレポートや再現動画も観ましたが、経験的には理解できます。もっとも、創造性の「混乱」は幻なるものとは薄い、しかし、明確ないち枚の隔たりがあるので、統合失調症をはじめとする精神疾患を患っている方々の幻に対する苦しみはひじょうなものだろうと想像します。とはいえ、実際に見知っていたり伝記に残っていたりする創造性の高いひとたちもまた、脳の多大な情報の「混乱」に振りまわされていることも事実なのです。

と、創造性の深さを問題にすると話があぶない方向に流れますが、創造的であるか否かの基本じたいはかんたんで、結論をいえば、無自覚な身体的模倣を停められるかどうかにかかっています。以前から書いてきているとおり、身体的な模倣は赤ちゃんが学習をはじめるのに欠かせない重要な機能で(「あなたの出逢いを定めている類人猿のコミュニケーション類型」)、もっといえば、[p2p type=”post_tag” value=”mammals”]哺乳類[/p2p]の多くの種にはあくびや情動が伝染すること、また、[p2p type=”post_tag” value=”anthropoid”]霊長類[/p2p]は互恵感情にもとづいた相互扶助の公平性を解することがわかっており(「相互扶助感情とグレート・リセット、クマムシ博士に書評を拾っていただきました。」)、私見では、発達心理学者の[p2p type=”post_tag” value=”robert-kegan”]ロバート・キーガン[/p2p]のいう「[p2p type=”post_tag” value=”socialized-mind”]環境順応型知性[/p2p]」、すなわち、周囲からもとめられている(と鏡像的に仮構した)期待や役割でだけ自己形成をした成熟モデルの第1段階の基礎がこれです。

もちろん、身体的共感にもとづいたこの知性が個体同士の群れを形成し、親密圏を醸成させ、その裏返しとしての政治的行動をも可能にするのですが、創造的であるためにはこの無自覚な共感のオンとオフを意識的に切り替えられなくてはなりません。実際、1996年に脳神経科学の分野で[p2p type=”post_tag” value=”mirror-neuron”]ミラーニューロン[/p2p]が発見され、中型哺乳類以上の種の身体的同期ないし共感の重要な物質的根拠が提出されていますが、マルコ・イアコボーニは通常のミラーニュロンの上部に位置し、その活動、すなわち、神経細胞の単純な発火率の調節と制御の役割を担うより複雑なスーパーミラーニューロン・システムの存在を示唆しています。

MirrorNeurons

ミラーニューロン」は、他者の行動やその意図を理解する手助けになると考えられている神経細胞だ。たとえば自分自身がワインの瓶を手に取る時と、他人が同じ行動を取るのを見ている時、どちらの場合にも、ミラーニューロンは活動電位を発生させる。

このほど、ミラーニューロンについて新たな発見が報告された。それによると、一部のミラーニューロンでは、他者の行動を見た時に発火する[活動電位を発生させる]だけでなく、行動を取っている他者と自分の間にどれだけ距離があるか、さらには、その行動に何らかの反応を返せる状態にあるかどうかといったことも発火に影響するのだという。 

「われわれの脳は、空間を少なくとも2つの大きな領域に区分している。1つは自分が何かできる、行動を取れる領域、もう1つは行動が及ばない領域だ」と、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で人間のミラーニューロン・システムを研究するMarco Iacoboni氏は説明する。「われわれの認知は、共感などのかなり高度なものでさえ、身体感覚と無縁ではないようだ」

研究チームはさらに、これらミラーニューロンに距離だけが影響を及ぼしているのではなく、実際に行動を取る可能性があるかないかも影響していることを示した。サルと実験者との間に透明の仕切りを置き、サルが行動を返せる可能性を除外した上で、実験者が物体を手に取る実験を繰り返したのだ(この場合、サルは実験中一度も同じ物体を手に取ろうとはしなかった)。この仕切りがある場合には、サルのすぐ近くで実験者が物体を手に取ったときでさえ、身体近傍空間に反応するミラーニューロンは活動しなかった。一方で、身体外空間に反応するミラーニューロンは反応して活動し始めた。

研究チームのCasile氏は、これらのミラーニューロンは、他者の行動を理解するためだけでなく、自分が彼らの行動に対してどう反応すべきかを判断するためにも行動を分析しており、しかも2つの分析を同時に行なっているのではないかと推察している。

「他者の行動に反応すべきか、するならどのように反応すべきかという判断を、行動を理解した後に行なっているのではなく、両方を同時に行なっているのかもしれない」とCasile氏は語る。

「ミラーニューロンは、社会的関係に非常に重要である可能性があり、特に、今回の発見はそのことを明確にしている」とIacoboni氏は説明する。「ミラーニューロンはある行動を、他者と協力するという点において重要なやり方でエンコードしている可能性がある」

 via 他者と自己の区別をしない神経細胞:ミラーニューロン « WIRED.jp. 

僕自身は、創造性の有無の根本にはこうした身体的模倣の複雑化、あるいは単純化を促す何らかの事情が働いているのではと推測します。たとえば、霊長類学者の[p2p type=”post_tag” value=”frans-de-waal”]フランス・ドゥ・ヴァール[/p2p]は著書『チンパンジーの政治学』でアーネム動物園のひじょうに精緻な集団模様を活写していますが、なかでもラウルという雄の個体は驚くほどに賢く、柵からの脱走や悪巧み、問題解決の影にはかならずラウルの存在があったと報告しています。しかし、ラウルのこの集団内での序列はひじょうに低いものでした。理由は単純で、持って生まれた体格があまり良いものではなかったのです。

反対に、創造性を有しているひとでもそれを失っていく姿を実際の人間関係で観てきています。彼らに共通するのは、比較的まとまりの強い集団や組織に無理やり順応しようとすると、創造性を失う、ふつうに云えば、善良そうなどこにでもいるひとになります。つまり、何らかの避けがたい事情により集団の外部を絶えず意識せざるをえない個の孤独こそが、創造性の発現と保持には欠かせないのであり、集団に対する盲目的な模倣、共感能力をより精密にコントロールするよう働きかけているのです。

興味深いことに、現代の気候学からは、地球規模の[p2p type=”post_tag” value=”climate-change”]気候変動[/p2p]にともなう急激な環境変化と社会集団の移動、文明の興亡、そして、人類の広い意味での創作物の多寡に相関関係のあることが指摘されています。たとえば、紀元前500年前後、[p2p type=”post_tag” value=”socrates”]ソクラテス[/p2p]や[p2p type=”post_tag” value=”gautama”]釈迦[/p2p]、[p2p type=”post_tag” value=”roshi”]老子[/p2p]の思想や実践が登場した時期ですが、紀元前700年前後と300年前後は太陽活動が急激に低下した寒冷化の時期であり、古代ギリシャ文明が衰亡し、古代中国は周王朝から春秋戦国時代に突入しました。14世紀半ばから19世紀前半、西欧中世の暮れからルネサンスを経て本格的な近代化の開始にあたるこの時期は、シューペーラー極小期(1450〜1570)とマウンダー極小期(1645〜1715)に代表されるきわめて気候の不安定な小氷期にありました。

しかしながら、気候学だけでは近代以後の温暖化の動乱と創造性の高さに説明がつきません。私見では、以前から述べているとおり(「イノベーション・サイクルの超加速化と科学的思考の歴史」、ランダムネスの高い自然に対する「家」としての社会じたいが、近代学問と技術を融合させ、経済・社会制度をあらたに整備することで、経済学者の[p2p type=”post_tag” value=”joseph-schumpeter”]ヨーゼフ・シュンペーター[/p2p]のいう「創造的破壊」の自壊作用を獲得し、イノベーションの極端な加速化の代償として自然環境のように過酷で不安定なものへと変質したのです。今日では、自然環境、社会環境、そして、1960年代、1990年代以降の問題としてあらたに構築された情報環境(「サイバー非社交性、情報技術が人間にもたらす3つの問題」)の3重の淘汰に晒されていることを自覚しなくてはなりません。冒頭引用のロマンチンックなものとは違い、現実の創造性は安寧の外にあるランダムネスの過酷さを見詰める以外に生まれようがないのですから。

Buy good books
And support me, please.

[amazonjs asin=”4150503745″ locale=”JP” title=”ミラーニューロンの発見―「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)”]

Chika Hitujiya

I'm Futurist, producing "Whole Earth Museum" and co-producing art project Run! Miumushi-Kun & Garapadish. This common purpose is really simple. Making you enjoy and preserving the enough requisite knowledge & things for human to survive the crisis of period.

Leave a Reply

Your email address will not be published.