宇宙開発事業と天然ガス資源、クリミア問題をめぐる世界情勢の深層


International Space Station

ロシアが「ウクライナの主権および領土保全を侵害したこと」を理由に、米航空宇宙局(NASA)のスタッフおよび請負業者に向けて、ロシアの政府関係者との関係を断つようNASA本部が指示した電子メールが、4月2日朝(米国時間)に漏洩した。

ただし、国際宇宙ステーション(ISS)の活動に関しては除外されている。米国とロシアにある地上管制室での協力が失われると、ISSは機能できないからだ。

NASAによる公式な回答を以下に引用する。

「NASAは現在、宇宙飛行士を軌道に届けるうえで全面的にロシアに依存しており、NASAとロシアは10年以上、この極めて深い協力関係を続けてきた。NASAの施設でロシア人の職員を見かけるのは日常であり、少なくともジョンソン宇宙センターなど、有人宇宙飛行を扱うNASAのセンターではそのようになっている。(中略)今回の指示ではISSが除外されたが、もしそれが覆されるとなると、ISSから米国の乗員を引き上げざるを得ない。しかしその乗員引き上げのためには、ロシア宇宙船とロシアの地上チームが必要になる」

漏洩した電子メールの全文は、以下(SpaceRef)で見ることができる。そのメールには以下のような記述がある。

「現在は、国際宇宙ステーションの作戦活動のみが除外されている。加えて、ロシア以外で行われる、ロシアが参加する多国間会議も、現行のガイドラインでは妨げを受けない。」

NASAはその後、公式声明を発表した。以下に、その一部を紹介する。

「ウクライナの主権および領土保全に対するロシアの侵害が続いているため、NASAはロシア連邦との現在の関係の大部分を停止する。しかしながら、国際宇宙ステーションの安全で持続的な運用の維持に関しては、NASAとロシア連邦宇宙局は引き続き協力していく」

via NASA、ロシアとの断交を指示するメールが漏洩。ISSはどうなるか « WIRED.jp.

[p2p type=”post_tag” value=”russia”]ロシア[/p2p]のクリミア侵攻当初から、今回の件がたんなるロシア・ウクライナ間の領土問題に留まらないことを強調してきましたが(「ロシアのクリミア侵攻は東アジアに火を点けるのか?」)、侵攻、併合に対する善悪の問題や、プーチン大統領の独裁体制に対する嫌悪感、あるいはそもそもの無関心という態度が国内では目立っており、各分野の専門家の解説を越えて、つまり、総合的な視点からの意見や一般レベルでの議論はほとんどおこなわれるにいたっていません。

以前書いたとおり(「シェール革命が影を投げかける世界の政治変動とアメリカの終末感」)、クリミア併合問題にもっとも深く関わっているのが石油、天然ガスの輸出入問題です。先月、先々月と、天然ガスの輸入をロシア一国に3割以上依存している[p2p type=”post_tag” value=”germany”]ドイツ[/p2p]をはじめとしたEU諸国はロシアと微妙な駆け引きをおこなっていましたが、現在では、シェール革命に盛りあがる[p2p type=”post_tag” value=”america”]米国[/p2p]のエネルギー資源の輸出入に相互協力をしていくと云うところに落ち着いたようです。(参考:

くわえて、旧西側諸国の言いぶんだけではどうしてもロシアが天然ガスを政治の武器にしていると云う見方になりますが、以前少しふれたように(「検証思考の欠落、ドイツの再生可能エネルギー法の破綻と中国のトリウム原子炉建設計画の15年短縮化」)、実際にはピジネスパートナーであり、それゆえにこそ、EU諸国の脱ロシアの動きは同国の経済に深刻な影響をあたえます。この点にこそ、ロシアが[p2p type=”post_tag” value=”china”]中国[/p2p]や韓国とビジネス上の問題として結びついていく必然性があるのですが、その意味では、ロシアと領土問題を長年抱えており、エネルギー問題に苦しみながらも、差しあたりは旧西側諸国との関係維持に努めていく以外に途のない日本は極めてむずかしい立場にたたされていると云えます。(参考:

CrimeaArmy

今回のロシア軍によるクリミア半島進駐は、2008年8月のグルジア紛争とは本質的に異なります。

3月7日付ニューヨーク・タイムズ紙報道(電子版)によれば、今回のクリミア進駐を決定したのは、ソチ五輪閉会後、プーチン大統領/イワノフ大統領府長官/パートゥルシェフ安全保障会議書記/ボルトニコフ連邦保安局長官4人のインナーサークル(全員KGB仲間)の由です。

もしこの内容が真実としますと、今回のプーチン大統領の対応は緊急措置ということになり、ロシアは以前からクリミア侵攻作戦を立案していたとの一部西側見解を否定することになります。

プーチン大統領はクリミア編入を望んでいなかったはずです。

しかし、大多数のクリミア住民が独立・編入を望み、ロシア国民が熱狂的にそれを支持している時流に鑑み、プーチン大統領は3月17日、クリミア自治共和国を国家承認する大統領令に署名。その勢い(熱狂)の延長線上で翌18日、クレムリンにて上院・下院議員に対しクリミア編入宣言を発表しました。

換言すれば、プーチン大統領には他の選択肢がなかったと言えましょう。低迷していた支持率もクリミア編入宣言後、70%以上に上昇。年内には、すべての実務的編入手続きも完了する予定です。

上記経緯より、現在クリミアで起こっていることはプーチン大統領の思惑を超えている、ということになると筆者は考えます。まさに世論の熱狂的雰囲気に流されて、瞬時のうちにここまで来てしまった感じです。

via ウクライナ紛争を巡るエネルギー問題  国民の熱狂に押されてクリミアを編入したプーチン大統領に降りかかる試練 – JB Press

重要なことは、プーチンのあたまのなかを覗いても何もわからないということです。国際情勢が冷戦構造にもどったと云う見方や、ロシアの動きをプーチン政権の欲望だけで理解しようとする見方は国の内外を問わず多いですが、個の知性の側からの観点でも、社会の側からの観点でも、情報化の変貌を無視していると云う意味ではひじょうにふるめかしい誤った見方にすぎません。つまり、個の知性としてはプーチンの裏の裏を観ていく繊細さを欠いており、同時に、以前書きましたが(「ビル・ゲイツが語るスノーデンの暴露問題とロシアの情報監視体制」)、プーチン政権、広くは社会側が既にそうした繊細さに基づいて動いていると云う現実、具体的には、国内の情報監視体制の存在を無視しています。

繰り返しますが、今日の政治問題は原理的に云って政治というひとつの領域をはるかに越えています。歴史的には多くの集団間の闘争には気候変動とそれにともなう環境変化が外圧として強くあり、くわえて、今日の情報通信技術の発展とそれにともなう分野の混淆化と国家の枠を越えた密接な結びつきにより、2007年の米国内の[p2p type=”post_tag” value=”subprime-lending”]サブプライムローン[/p2p]問題に端を発した世界金融危機、世界同時不況が良い例ですが、局所で起きた問題の要因はむしろ外部の側にあり、同時に、局所の問題の影響がどのように外部へ波及していくかを真剣に考えなくては何も観えない時代になっています。

SoyuzRocket

アメリカが通信衛星を打ち上げる際、ロケットに搭載するエンジンはもっぱらロシア頼みだ。気象衛星や、軍のミサイル早期探知システムさえ、ロシアの協力が欠かせない。カーナビや携帯電話、ATMが使えるのも、ロシア製のロケットエンジンのおかげというわけだ。

さらに、NASA(米航空宇宙局)は11年にスペースシャトルの打ち上げを終了した。アメリカの宇宙飛行士や物資は、ロシアの宇宙船ソユーズで宇宙ステーションに飛び立つ。

つまり、ロシアには宇宙という切り札があるのだ。

ロシアによる報復措置のうちアメリカがとりわけ警戒するのが、ロシアのNPOエネゴマシュ社が開発してロシア国内で製造するロケットエンジン「RD-180」の扱いだ。ロシア政府がアメリカへの供給を停止すれば、大きな打撃になりかねない。

RD-180は、NASAや米国防総省の衛星を打ち上げる大型ロケット「アトラス5」の第1段エンジンを担う。

「ロシアのロケットエンジンは世界一だ」と、宇宙システムの専門家で、航空宇宙・防衛コンサルティング企業アパセントの取締役を務めるロイス・ダルビーは言う。「アメリカの国防に関わる衛星の打ち上げには、RD-180が最も効率的で最もコストが安い」

ダルビーによれば、今後2年間で、米国家偵察局(NRO)の機密指定の偵察衛星4基、画像撮影衛星1基、気象衛星2基、GPS衛星4基、軍事通信衛星3基、米空軍の機密機器用衛星2基、NASAの科学衛星1基がアトラス5で打ち上げられるという。「RD-180が使えなくなれば国家安全保障が打撃を受ける」と、ジョージワシントン大学宇宙政策研究所のジョン・ログズドン所長は指摘する。「アトラス5は、アメリカが軍用と民用の衛星を宇宙に打ち上げるための重要なロケットだ」

今のところ、アメリカは微妙なバランスを求められている。国際社会ではロシア政府の振る舞いを非難しながら、宇宙開発におけるロシアとの協力関係を維持しなければならない。

via 制裁合戦が宇宙に飛び火?(ジーン・マッケンジー)|日本版ニューズウィーク

以前書いたとおり(「次世代の宇宙服BioSuitとポスト情報化社会をかたち作る科学技術」)、現在の宇宙開発事業は前世紀の軍拡の延長のものとは違う意義と重要度をもって動いています。[p2p type=”post_tag” value=”tesla”]テスラ・モーターズ[/p2p]社の最高経営責任者として知られる[p2p type=”post_tag” value=”elon-musk”]イーロン・マスク[/p2p]は、人類を火星に移住させると云う壮大な目標のもと、民間発の再生利用可能ロケットの実用化をめざして[p2p type=”post_tag” value=”space-x”]SpaceX[/p2p]社を同時経営していることは有名ですね。上記引用の記事によれば、イーロン・マスクは下院公聴会でアメリカが「宇宙へのアクセスを確保」できているとは言い難いと証言し、自社が国内で開発と製造をしている「ファルコン」の方が「アトラス5」よりも信頼性が高く、コストもはるかに安いと売りこんだようです。

そして、民間の宇宙開発事業の分野でけっして無視できない存在が、[p2p type=”post_tag” value=”x-prize”]X Prize財団[/p2p]の設立とシンギュラリティ大学の創設などで知られる社会起業家の[p2p type=”post_tag” value=”peter-diamandis”]ピーター・ディアマンディス[/p2p]です。日本語圏ではほとんど知名度がなく、情報も少ないので(参考:)、詳しいことは下のTED講演の動画を観ていただくのがいちばんでしょう。いずれにせよ、今回のクリミア問題をめぐる米露間の制裁合戦が宇宙開発事業の国際協力と民間企業にどのような影響と刺激をあたえるかは、未来の問題として今後も注目していく必要があります。

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Chika Hitujiya

I'm Futurist, producing "Whole Earth Museum" and co-producing art project Run! Miumushi-Kun & Garapadish. This common purpose is really simple. Making you enjoy and preserving the enough requisite knowledge & things for human to survive the crisis of period.

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